円流 明鏡館五訓・円流について
円流 明鏡館五訓
一、人ワ責務ヲ全ウシ 自由タルベキコト 一、稽古ワ誠心誠意タルベキコト
一、酒気ヲ帯ヲ稽古セザルベキコト
一、他流ノ讒言セザルベキコト
一、己ヲ己ニシテアラワシメルベキコト
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円流について
世界ヲ円ニ見ナセハ人モ同シ 円ノ中心ハ自我ニシテ 円ト円ハ互ニ交ワルコトアリトモ 中心ノ他の中心トノ交ワルコトナシ コレ中心ハ個性ナレハナリ 円ヲ個ヨリ微塵ニ微塵ヨリ世界ヘト拡大セシムルニ コレ永遠ニシ限リナシ 然ルニ中心ナクンハ世界ナシ微塵ナシ無限モナシ 依ッテ個性ノ重大ココニアリテ個性ヲ円流ノ源トナス 個ハ争イヲ求メス和ヲ願望ス マタ無比流杖術伝書ニ日ク 「杖木ノ円者ヲ以ツテ白刃ノ利ヲ制ス」ト 以上ノ如クシテ我等ノ流派ヲ円流トナス也
明鏡館館長 正木 明 照久
一九八六年(昭和六十一年)一月十八日
円流・流儀ノ事
演武会
円流流儀ノ事
円流ノ流儀ハ活人ノ技法也。勝負(カチマケ)ハ法外慮外ニアリテ、勝負ノ事、天地ニ愧(ハ)ジザルヲ旨トス。元ヨリ武術ナレバ勝タンガ為ノ法ナレド、勝ニ至ルニハ、人ヲシテ死ニ至ラシメル法、人ヲシテ活カシメル法トアリ。分別ヲ分別ナラシメテ術ヲ用イシヲ道ト称ス。然ラバ円流ノ流儀、自ズカラ極メン世界アル事、必定ナリ。
円流流儀ノ稽古ノ中、アレコレノ申シ立ヲ嫌ウ不可(ベカラズ)。議ヲ蓋シ、体ヲ為(ナ)シ、意、満ツレバコレヲ用ウベシ。円流ノ流儀ハ之(コレ)ニヨリテ崩ルコト無シ。乱ルコト無シ。工夫創意ナキ術ハ、ヤガテ枯レルベシ。斯ノ故ハ、稽古、重ネ重ネ致シ候ハバ、ユルリユルリト、元ノ形ニ戻ルコト必定ナレバ也。
流儀稽古ノ中、上手ノ者下手ノ者に当リテハ、下手ノ者ノ少シク先ノ位ニテ稽古スベシ。他流ノ技、交エルベカラズ。コノ事、他流ヲ絶(タ)ツニ不有、ムシロ他流儀、理(コトワリ)、滋味豊カニシテ掬(キ)クスベキコト多ク、尊シトセザルベカラズ。マシテヤ讒言(ザンゲン)ナス可ケンヤ。
初心ノ者ハ心ヲ、身体、 得物ニ止マリテ可。力籠メ、気勢張リ、正確ヲ期スベシ。 正確ヲ期シテ気勢衰エルモ可。気勢張リテ、正確ヲ欠クモ可。精進ニテ己レノ囚ワレ脱スルハ必定。
流儀ノ力量、段々之有ルモ、行キツキル処目指サンハ、切リ落シ、袈裟切リ、逆袈裟、突キ、躱(カワ)シ、入身、等々ノ技ハ、切リ落シニ不有(アラズ)、袈裟切リニ不有、逆袈裟、突キ、躱シ、入身ニ不有シテ、身体柔ラク、心止メズシテ、ソヨグガ如ク、舞ウガ如ク、玄妙ノ界ヲ会得センガ為ノモノ也。天地玄妙ノ界ト申セバ大仰ナルニ聞コエムガ、然(サ)に不有シテ、稽古ノ中、下手ナル者ニモ上手ノ者ニモ、ホレ、ソレヨソレヨ、ト不思議ナル技、現(アラ)ワレル事アリ。ソレ玄妙ノ界也。玄妙ノ境ヲ常々ノ所用トナスハ、元ヨリ難事ナレド、コノコト目指サザレバ、稽古ノ甲斐ナク先人ノ声、キクコト不能。稽古稽古ニテ、自ズカラ天地ニ背カザル姿得ベシ、天地ニ活キルヲ得ベシ。之、円流流儀ノ事也。
正木 明 照久
一九九三年平成五年三月
円流明鏡館大綱
正木明館長
円流明鏡館大綱
円流明鏡館大綱 館長 正木 明
菜ノ花ハ天ノ花ニシテ地ノ花ナリ 菜ノ花ハ路ニアリテ良ク野ニアリテヨシ 陽ノ下ノ群落 風ニソヨギテ雨ノ日モ良シ 斜面ニ咲ク一株ノ僅カニソヨギ遊ブ ソノ様モ 森羅万象ニ向イテソノ姿溶ケルガゴトク鮮ヤカナリ ソハ吾等人ノ及ブベカラザル世界ナレド 吾等意ヲ用イ志ヲ立テ 高キヲ望ミ 円流稽古ニ只只親シミ励メケレバ形姿穣穣トナシ自ズト 斎ノウコト必然ナリ 吾ココニ[二〇〇四年]古希ヲ迎へ円流ノコト申シ述ベント欲シ以下ニ記サントス
円流ノコト述ベント欲セバ斯ク斯ク然々ノコトニアラズタダ一ツノコト也 思ウニタダ一ツノコト申シ述ベルワ至難ニシテ黙シテ語ラズモ方便ナリ 然ラバ方便ハ斯ク斯ク然々ト申シ述ベント為スモムベナランヤ 人ハソノ人途絶エテ生キルコトナシ 死ハソノ人ノモノニシテ他人ニアラズ 生死ノ問イハココニアリ サレド生死ノ事ガラ解キシ人ナシ 生ハ死ヲ問ウモ 死ハ生ヲ問ハズ 死ハ闇也 闇ヨリ生ヲ望メバ光明無限也 光明浄身願ワントスレバ 武ヲ行ナウニ如カズ タツキノ段段押シ退ケ哀惜ノ心失ワズバ献身ノ心現レ 円流稽古三昧ニ至レバ一身ノ潔斎違ウコト無シ
武ノコト稽古ノコト先人ノ言多シ 今吾述ベントスルモ先人ノ言辞ト重ナルコト 多々アラン サハアレド「一」ノ字人書ケバソノ人ノ「一」ニシテ同一ノ「一」他ニナシ サリトテ「一」ハ「一」ノ意ナリ 不思議トイワンヤ コノコト能ク能ク吟味シ 道場ニテ理備へ技上手ナル者技ヲ人ニ伝エントスルニ己レノ技熟達大事知リダルト覚エ一ツ二ツノコト極マリトテ教エントナセバ ソレ円流ノ大義 忽マチニ拡散消滅スベシ 大事ヲ知リタルト覚エンコト尊キモノナレド ソノコト所有シタリトスルハ小者ノ覚悟ニシテ覚悟尠(スク)ナク慢心トイワンヤ 「行ウハ既ニ現ハレル也」ノ意ココニアリテ 即チ勁箭(ケイセン)放ツトモ必ズ墜ツ 勁箭ヲ求メ放ツヲ願イ墜ツルヲ思念シ 美醜ヲ極ワメナバ至極ノ大覚悟アリ 勝負ナクシテ武術ナシ 勝負ハ生死ナリ コノコト虚言ニアラズ 毀誉褒貶ハ他者ノ所有ニシテ吾ノモノニアラズ 生命唯一ナリ 人ノ光芒 祝イテ楽シメバ剣ノ正眼必ラズヤ正真正銘ナルコト疑イナシ
ソコニアリテソコニアルハ当然自然ノコトナレド何故ト問エバ ソコニアラシメルアル故ナリ ソハ他力ノ事業ナリ 他力ト現今ヲ伝エル糸ハ技量ナリ 技量ニ巧遅拙速優劣アレド ソノ値打チ皆勝負ニアリテハ同等ナリ 吾勝ツハ人負クルナリ 吾負クルハ人勝ツナリ コノ理リ深ク深ク憶エケレバ勝チ負ケノコト何処ニアランヤ 妙締ナリ
初心ノ者ニ教エントスルハ全力ヲモッテ当ルベシ 全力トハ教エル者ノ全力ニアラズシテ誠意ナリ 初心ノ者ノ身体伸ビヤカニ心寛ク直グナルヘク持サンコト肝要ナリ 初メヨリ技ヲトリ理ヲ説クハ矯枉過正ニ陥ルコト多シ 型ノ大概ヲ繰リ返シ繰リ返シ行イ次第次第ニ膝足手首ノ方向馴染ミテ 技ニ入リ理ヲ説クハ至極 技ハ理ニ先ジ 理ナキ技ハ痩セ 理先ズレハ虚言ノ癖ヲ生ズ 修行ノ意コノコトニシテ教示ノ者ハ水飲場マデ案内スルノミ 畢竟水飲ムハソノ者ニシテ教示スル者ニアラズ 教示ノ者ハ水飲場マデ案内シ 水ノ美味ヲ賞スノミ 初心ノ者ニ大概ヲ繰リ返シ繰リ返シ教エルハ大概ニ触レナムタメナリ 大概ヲ怠リテノ稽古ハ 稽古年々重ネ重ネン中ニ技ノ細事ヲ知リ運用ヲ得テ而後大概ヲ失ウ 元ヨリ細事運用究極ノ大事ナリ 川ヲ渡ルニ浅キヨリ入リ深ミヲ径浅キニ至ル コノ言ハ言トシ 浅キニ深ミアリ 深キニ流レアリ礫アリ泥アリ冷水暖水アリ 細心用心ノ上川ヲ渡リテ川ヲ知ルヤ否乎 吟味スベシ
吾 昔日師松本貢兼久先生ニ問ウ 「当流技多シ秀発ノ技孰(イズ)レナリ乎」師答エテ曰ク「一本也」爾後吾ソノ意ヲ不尋 不尋間ニ師没ス 吾旦夕師ノ言ニ執心ス過日豁然ト識ル師又曰ク「変事突発ニ間髪習イタル技不出」ト「習イタル技不出トモ技自ズト発ス」ト 吾識リタル「一本也」ハ円流ノ技全部ニシテ「一本也」一人ノ生涯一生ニシテ一本ナリ 吾等虚ヨリ生マレ虚ニ消ユル 七十歳ヨリノ一センチハ蝶ノ舞ヒニシテ自然ノコト也 生キルハ真厄介ナコトナレド生キルハ一定ノコトニシテ避ケルヲ不能 サレバ善キヲ願イ天ニムカイテ善ク生キ 生キル答エハ問イノ中ニアリテ連綿ニ至ル 時ニ吾ラ相見相対シ稽古ヲ為ス